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ハノエ―四ッ谷探偵事務所奇譚―

ここは東京――新宿。 賑やかな中心街から少し離れたビルの2階。 『四ッ谷探偵事務所』に係る、異能を持った人間達の物語。

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始動


日本の首都―――東京。






大小様々な建物が建ち並び、一日中様々な人が行き交う場所。
眠らない街とも呼ばれ、ネオンは真夜中になっても消えることがない。



東京には、少し変わった人間達がいた。
見た目は普通の人間と何ら変わりはないが、様々な『特殊能力』を持っている。





例えば、未来を視る能力。


例えば、自然を操る能力。


例えば、モノを動かす能力。


例えば、傷を癒す能力。





それらの能力を持った人間を『異能者』と呼ぶ。



しかし警察には異能者を『異端』と侮蔑し、異能者を捕まえる側の組織がある。
異能者を捕まえる為の『警視庁異能捜査課(通称異捜)』、マスコミ対応や雑務などを担当する『警視庁異能庶務課』、異能者についての研究をし、科捜研の様な役割を果たす『警視庁異能研究課』に分類され、この三つの課を総称したのが『異能課』だ。異能者の捕獲はあくまでも内密に進められているため、この組織が明るみになることはない。




そして、異能者もいくつかの派閥に分かれている。
まずは異能を積極的に使い、グループを作って「自分は一般人より優れている」という認識を持っている者が多い『過激派』。一方、警察から身を潜め、異能もなるべく使わずに一般人と同じような生活を送る『保守派』。その両方に属さない『中立派』。大きく分けてこの三つに分類される。








今回の舞台は、東京の中でも多くの人が行き来する―――新宿。




その中心地から少し外れた場所にあるビルの二階にある、『四ッ谷探偵事務所』。




そこにいるのは、







仲間思いの探偵と、



少しだけ不器用な強運持ちと、


神出鬼没のヒーローと、



常に前向きな探偵助手と、



小さな頑張り屋。







この物語は、探偵事務所に集う者達の、―――過去を断ち切る物語。











(枝の葉が散る頃、彼等は邂逅を果たす)


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邂逅1


(四年前の、某日。)






「・・・ひとつ聞いてもいい?」

「ん?何だ?」


「どうして、女子制服なんだ?」


「ははっ、似合ってるぞ?」


「そーいう問題じゃ、・・・・・・・はぁ、もういいや」


「気を付けろよ」







この人に言われちゃあ、ノーとは言えない。
いや依頼自体には問題はない、高校に潜入捜査なのも、問題はないのだが。
先程述べた通り、何故スカートなのだ。
当然女装趣味なんてないわけで。完全に楽しんでやがる、もういいオッサンのくせにやることがまるで子供だ。





「探偵サン、ヘマはしないよ」










足がスースーする。歩く度ひらひらと揺れる。しかも思っていたより丈が短い。
女のコってこんなに頼りないもの履いてるんだなあ、なんて暢気なことを思った。
今の恰好は、白いワイシャツの上にベージュのニットカーディガン。そして深緑にチェック模様のスカート。落ち着いた色でまだよかったと思えてしまう自分が嫌だ。




「おはよー!」

「ねえ英語の予習見せてー」

「えー、仕方ないなー」



普通の共学、がやがやとした廊下。一人くらい知らない生徒がまざっていたところで誰も気になどとめない。堂々としていることが重要なのだ。これは学校に限らず、どこに潜入調査に行っても同じこと。知らない場所ほど、堂々としているべきなのである。



・・・まあ、女装なんだから少しくらい誰かに疑問に思ってほしいところなんだけども。




「お、」



チャイムが鳴る。
生徒達はばたばたと、もしくはゆるゆると、各教室へと戻って行く。
自身は高校に通っていなかったので、少し新鮮でもある。
そのままうっかりどこかの教室へ入ったら、と一瞬だけ考えて馬鹿馬鹿しくなった。
探偵サンのお仕事は授業を受けることではない。
調査をすることなのだ。


かと言ってそのまま廊下にいたんじゃ、目立ってしまう。






「・・・屋上かな」






サボりの定番、屋上。
そんなイメージがあった。一限から授業をサボるために屋上に行くような生徒がいるのかはわからないが、もしいたとしたら見たことのない生徒がいたくらいで先生に報告するなんて律儀な生徒ではないだろう。そんなことを思いながら、屋上へ続く階段をゆっくり上がっていく。普通鍵は閉まっているものだと思うのだが、意外にもドアノブは簡単に回った。ふむ、誰かいるか。それとも屋上を普段から開放している学校なのか。急な依頼だったため、そこまでは流石に調べてこれなかった。
くるりとドアノブを回し、ドアを開ける。









開け放ったドアの向こうには、眩しい程の青空と、








――橙色と銀色がいた。









(どこからか葉が舞ってきたようだった)



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邂逅2

 


思わず目を細めた。

 



そこにいたのは橙色の短髪、ゆるく着こなした制服、口まで覆ったマフラーに不機嫌そうな表情の男子生徒と、明らかに生徒ではない、長い銀髪を後ろで一本に結わえた、黒いパーカーにジーンズというラフな恰好の、・・・多分、男。つい数瞬悩んでしまうほどに、中性的な雰囲気。屋上に誰かがいるだろうとは予想していたのだが、あまりにもミスマッチというか、まさか私服の人間がいるとは思わなかった。



その二人が、一斉に自分の方を向いて、目が合う。






「サボり?」


「・・・お互い様だろ」




問いかけに反応したのは不機嫌そうな彼。ちょっと意外。ゆっくりとその二人に近づく、どうも雰囲気的にお互いが友達というわけではなさそうだ。それより、気になるのは銀髪クン。さっきからやけに視線が下で・・・・って、あ。






「女装趣味ですか」

「違うよ」

「いえ否定をしているわけではありませんよ、趣味は自由ですし」

「ちーがーうって言ってんだろ」




似合ってますよ、とそら恐ろしい言葉を真顔で述べる銀髪クンの心情が読めない。好きではいてるわけじゃないんだからな。依頼人の趣味だから。何が「みーくんにはこっちの方が似合うと思ってさー」だ。普段なんて呼び捨てのくせに、こういう時ばかりみーくんなんて気持ち悪いあだ名で呼ぶ。あの黄色の髪の依頼人のにやにやとした顔を思い出したところで、若干忘れかけていたスカートの存在を思い出してしまった。




「君こそ不法侵入じゃないの?明らかにガッコーの生徒じゃないでしょ?」


「女装趣味さんに言われたくありませんね」

「だからこれは趣味じゃなくてだな」








「――探偵ならもっと目立たない恰好をすべきでしょう。変装の意味がないです」


「・・・・・・!」






あれ、探偵って言ったか。
言ってないだろう、これでもプロだ。目の前の銀髪クンはあくまでも無表情で、今日の天気を話すかのようにさらりと探偵と言った。なんだ、おいおい、こんな奴いるなんて聞いてないぞ?探偵という単語を聞いて、興味なさそうに空を見ていたマフラークンもこっちを見た。





「探偵?」


「・・・・・・・・あれー、何でわかった?」


「僕、勘は良いんです」




銀髪クンはそう言って、笑った。マフラークンは怪訝そうな表情で見てくるし、何か調子が狂う。屋上に来たのは失敗だったかもしれない。とは言ってもまさか授業に出るわけにはいかないのだが。いや、逆に会っておいて正解だったのか。こんなよくわからない相手の存在を知らないまま依頼を遂行するというのも、なかなかに危険だ。




「おい、・・・・探偵が、ンでうちの学校にいるんだよ?つーか、お前も私服だし生徒じゃねえっぽいし」

「んーバレちゃ仕方ないか。でも、極秘事項ってやつ?」


「僕はただの暇潰しです」


「・・・なあ、悪ィ、出ていってくんねえ?」






マフラークンは、言いながら口元をマフラーにうずめる。まじまじと見れば、あまり顔色が良くない上に、両目の下には隈がハッキリと見てとれた。ただのサボりではない、そう感じると同時に、このどこか胸騒ぎがする感じには覚えがある。もしかして、彼は。




「ねえ、君さ、」





確かめなければ、そう思って声をかけようとした矢先のことだった。










――――ズドン、と。




「っ?!」

「うわっ!?」

「・・・・・・・!」



 



地響きの様な爆音が響いて、学校自体が揺れた。




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邂逅3



何とか、よろめくだけで堪えた。

 


一瞬地震かもしれないと思ったが、すぐに違うと察した。下の階から煙があがっているのが見えたからだ。慌てて場所を特定しようとする、煙が凄い。恐らく爆弾だろう。おいおい、まさか初日からヒットするなんて流石に思わないでしょう。今日潜入していなかったらどうなっていたのか、少し考えてやめた。

 

 

「二階、ですね」

 

「ああ。となると職員室か、三年生の教室、か?」

 

 

「・・・・・・・・、!」

 

「あっ、ちょ、おい!」

 

 

銀髪クンとナチュラルに会話をしていると、慌てた様子でマフラークンは屋上から出ていってしまった。ちらっと見えた横顔は、ただでさえ悪い顔色をこれでもかというほどに悪くさせていて。自分もとりあえず現場へ急ごうと、扉へ向かおうとした。

 

が、しかし。

 


「・・・なに、銀髪クン」

 


探偵サンの腕は銀髪クンにがっちり掴まれていた。意外に力があって驚く。相変わらず表情は読めない。

 


「いえ、何でもありません」

 

 

ぱっ、と。
それはもうあっさりと掴んでいた手を離されて、少しよろけそうになった。
何だったのかわからないが、ぐらりと視界がぶれたような、そんな気がした。
実際にはたった数秒のことで、何かが起こったわけではないのだが。

 

「さあ、行きましょう。場所は3-Bです」

 

「は?だから何で、」

 

「言ったじゃないですか。僕、勘は良いんです」

 

 


そう言って銀髪クンは自分より先に扉を開けて下りて行ってしまった。
唖然とする探偵サンにひゅうと冬の冷たい風が吹いて、スカートがなびいた。

 

 

 

「うわ、」

 

 


それはもう、大変なことになっていた。

 


かけ足で銀髪クンに追いついてほぼ同時に二階に辿り着いたのはいいが、人、人、人。煙があがっている教室――銀髪クンの言う通り3-Bだった――以外から生徒達が次々と飛び出して、外へ向かって行く。階段周りは大混雑だ。これじゃあ潜入捜査もあったもんじゃない、ある程度の情報を集めて挑む予定だったのにこんなのレベル1でラスボスに挑む様なものだろう。さしずめ、装備は木の棒と鍋の蓋ってところか。・・・・こうして冷静に状況分析らしきことをしているが、実際にはやばいと感じている。問題の現場3-Bの扉はどちらも閉まっていて、それを睨むように立ち尽くしているのはマフラークン。とりあえずその場に辿り着こうと人混みに逆らってみたが、軽く集団パニック状態になっているこの生徒の波を逆行するのはなかなかに体力が必要だった。ようやく抜けた頃には、まだ任務もこなしていないのにぐったりとしていた。もうここまで来たら変装とか関係ない、よな。そう自分に言い聞かせてスカートの下からいつもの緑チェックのチノパンを履いた。当然スカートは脱ぐ。ブレザーも脱いで、ワイシャツの上から愛用のトレンチコートを羽織った。うん、これじゃないとイマイチお仕事に気合いが入らない。

 

 


「ああ、趣味の時間は終了したんですね」

 

「あれは変装専用だっつーの」

 


始終無言のくせにやけにそこだけ食いつく銀髪クンはこの際気にしない。そう、あれは幻なんだ。着てない見てない見られてない。そんなやりとりをしている間にマフラークンは扉に手をかけた。


――――バチッ、という音と、青白い光が弾けて、彼は数歩後退する。

 

 

「っ!」


「ちょっ、大丈夫か?!」


「アンタら・・・・!別に、こんなの大したことじゃねえ、それより、」


「結界、みたいですね」

 


銀髪クンが言う通り、この教室には結界が張られているようだった。明らかに、計画的犯行。そして、依頼人からの情報が確かならば、中にいる犯人は。

 


「―――、三人ってとこか」


「おや、探偵サン。貴方も勘が良いんですか?」


「まー、似たようなもんかな」


「・・・、沙夜、」

 

銀髪クンの言葉は軽く流す。自分が不利になる情報は与えない、探偵として当然のことだからだ。それよりも、マフラークンの最後の一言が気になった。今、名前を呼んだ?

 

 

「沙夜、って誰?」


「・・・・アンタには関係ないだろ」


「いーや。もしこの教室にいるんだったら関係あるよ。探偵サンの任務にはね」

 


下手なウィンクなんてしてみる。探偵は、いつも余裕を持っていなくてはならない。なあんて言葉を思い出した。それにしても、教室から一切音が聞こえない。物音一つたてないなんて、・・・・・いや、これも結界の効果か。

 


なんて思っていた時だった。

 

 


――――扉が勢い良く両方開いて、生徒達が飛び出してきた。

 

 

 

「うわっ!え、なに、」

 

 

状況が読めない。
今日は驚いてばかりだ。いつまでも後手にまわってばかりは良くない、逃げる生徒の中でも真面目そうな女子生徒の腕を掴まえて、尋ねた。

 

 

「ねえ!どうしたの?」


「さっ、沙夜ちゃんが!沙夜ちゃんが、人質にっ、て・・・・!」

 

「何で君達は出られたの?」


「それもっ、沙夜ちゃんが!人質は一人いれば充分でしょ、って、あたし達を出すように言ってくれたから・・・・」

 

また沙夜という名前だ。
その名前を聞いた途端思わずマフラークンの顔色をうかがった。彼は今にも教室に突入しようとしている。

 


「そう、ありがとう。君も急いで逃げなさい」


「――――よくもやってくれたな!!!」


「きゃっ、」


「沙夜っ!」

 


犯人らしき男の怒号と、女子生徒の叫び声と、マフラークンの焦った声。理解するより先に、教室に駆け込む。

 

 


そこにいたのは、全身黒の服をまとった品がない男が三人と、――その中の一人に強引に髪を掴まれている茶髪の、赤と白のボーダーのマフラーをした女子生徒だった。

 

 


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邂逅4



赤と白のボーダーのマフラーは、やたらと視界に映えて存在を主張していた。周りの奴らが真っ黒だからだろうか、彼女の存在が浮いて見えた。マフラークンが呟いた「沙夜」というのが恐らく彼女だろう。この子が、クラスの全員を解放させて自ら人質になった子。







「・・・沙夜を離せ」





それは低く、地を這うような声だった。


爆発で割れた窓から入る風で、はたはたと彼のマフラーがなびく。人質にされている彼女のボーダーマフラーも、なびいていた。何故かその光景を見て、この二人がキョウダイのような、カゾクのような、そんな「繋がり」の印象を受けた。





一歩、マフラークンが彼らに近づく。





「来るな!コイツがどうなってもいいのか?」


「月音!」




ツキネ、と。初めて耳にする名前を聞いた。状況から考えてまず間違いなくマフラークンの名前なのだろう。沙夜クンの髪を掴んでいた男が脅しをかける。しかしそのまま歩を進めるマフラークン、そんな彼を制止させたのは彼女の一言だった。更に、拘束から抜け出そうと沙夜クンがもがく。ぴん、と張った髪の毛が痛そうだ。・・・何でこんなに自分が傍観しているかというと、彼――マフラークンの様子が、やはりおかしい。そう感じたからだ。




先程より顔色が悪い。
ゆっくりと一歩進むごとに、微妙にだが、顔をしかめる。まるで何かの痛みに耐えているかのように。



そして、一番不可解なことは。



――この異常な状況に、慣れすぎているということだった。





普通の高校生の反応ではない。
明らかにこの学校の生徒ではない銀髪クン(教室の入口でぼんやりとこの状況を眺めている)ならまだわかるが、こんな、巻き込まれただけの少年の反応にしては落ち着きすぎている。




「・・・、」




わからないことが多すぎる。
状況整理が出来ない以上、派手に動き回るのは得策ではなかった。







「クソっ、この女!動くな!」


「きゃっ」






もがく沙夜クンを黙らせる為か、黒服の一人が髪を引っ張るのをやめて首元のマフラーをぐい、と引き寄せた。余程強く引っ張ったのだろう、ぶちり、とマフラーの毛糸が千切れる音がした。







「―――!」






瞬間、彼女の瞳が大きく揺れて。





バチッ、そんな音と共に視界が黄色の閃光に染まった。立て続けに、ズドンという鈍い音。何だ、何が起こった。







漸く閃光が収まり、目を開けると。









「汚い手で触んな、クズが」










教室の床にめり込む様に倒れこむ先程の黒服と、ゴミでも見るかのような目でそいつを見下す沙夜クンがいた。






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ハノエグミ
性別:
非公開
自己紹介:
【ハノエグミ】
ハノエプロジェクトを始動させたクリエイター集団。
サイト近日公開予定。

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