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ハノエ―四ッ谷探偵事務所奇譚―

ここは東京――新宿。 賑やかな中心街から少し離れたビルの2階。 『四ッ谷探偵事務所』に係る、異能を持った人間達の物語。

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邂逅1


(四年前の、某日。)






「・・・ひとつ聞いてもいい?」

「ん?何だ?」


「どうして、女子制服なんだ?」


「ははっ、似合ってるぞ?」


「そーいう問題じゃ、・・・・・・・はぁ、もういいや」


「気を付けろよ」







この人に言われちゃあ、ノーとは言えない。
いや依頼自体には問題はない、高校に潜入捜査なのも、問題はないのだが。
先程述べた通り、何故スカートなのだ。
当然女装趣味なんてないわけで。完全に楽しんでやがる、もういいオッサンのくせにやることがまるで子供だ。





「探偵サン、ヘマはしないよ」










足がスースーする。歩く度ひらひらと揺れる。しかも思っていたより丈が短い。
女のコってこんなに頼りないもの履いてるんだなあ、なんて暢気なことを思った。
今の恰好は、白いワイシャツの上にベージュのニットカーディガン。そして深緑にチェック模様のスカート。落ち着いた色でまだよかったと思えてしまう自分が嫌だ。




「おはよー!」

「ねえ英語の予習見せてー」

「えー、仕方ないなー」



普通の共学、がやがやとした廊下。一人くらい知らない生徒がまざっていたところで誰も気になどとめない。堂々としていることが重要なのだ。これは学校に限らず、どこに潜入調査に行っても同じこと。知らない場所ほど、堂々としているべきなのである。



・・・まあ、女装なんだから少しくらい誰かに疑問に思ってほしいところなんだけども。




「お、」



チャイムが鳴る。
生徒達はばたばたと、もしくはゆるゆると、各教室へと戻って行く。
自身は高校に通っていなかったので、少し新鮮でもある。
そのままうっかりどこかの教室へ入ったら、と一瞬だけ考えて馬鹿馬鹿しくなった。
探偵サンのお仕事は授業を受けることではない。
調査をすることなのだ。


かと言ってそのまま廊下にいたんじゃ、目立ってしまう。






「・・・屋上かな」






サボりの定番、屋上。
そんなイメージがあった。一限から授業をサボるために屋上に行くような生徒がいるのかはわからないが、もしいたとしたら見たことのない生徒がいたくらいで先生に報告するなんて律儀な生徒ではないだろう。そんなことを思いながら、屋上へ続く階段をゆっくり上がっていく。普通鍵は閉まっているものだと思うのだが、意外にもドアノブは簡単に回った。ふむ、誰かいるか。それとも屋上を普段から開放している学校なのか。急な依頼だったため、そこまでは流石に調べてこれなかった。
くるりとドアノブを回し、ドアを開ける。









開け放ったドアの向こうには、眩しい程の青空と、








――橙色と銀色がいた。









(どこからか葉が舞ってきたようだった)



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