思わず目を細めた。
そこにいたのは橙色の短髪、ゆるく着こなした制服、口まで覆ったマフラーに不機嫌そうな表情の男子生徒と、明らかに生徒ではない、長い銀髪を後ろで一本に結わえた、黒いパーカーにジーンズというラフな恰好の、・・・多分、男。つい数瞬悩んでしまうほどに、中性的な雰囲気。屋上に誰かがいるだろうとは予想していたのだが、あまりにもミスマッチというか、まさか私服の人間がいるとは思わなかった。
その二人が、一斉に自分の方を向いて、目が合う。
「サボり?」
「・・・お互い様だろ」
問いかけに反応したのは不機嫌そうな彼。ちょっと意外。ゆっくりとその二人に近づく、どうも雰囲気的にお互いが友達というわけではなさそうだ。それより、気になるのは銀髪クン。さっきからやけに視線が下で・・・・って、あ。
「女装趣味ですか」
「違うよ」
「いえ否定をしているわけではありませんよ、趣味は自由ですし」
「ちーがーうって言ってんだろ」
似合ってますよ、とそら恐ろしい言葉を真顔で述べる銀髪クンの心情が読めない。好きではいてるわけじゃないんだからな。依頼人の趣味だから。何が「みーくんにはこっちの方が似合うと思ってさー」だ。普段なんて呼び捨てのくせに、こういう時ばかりみーくんなんて気持ち悪いあだ名で呼ぶ。あの黄色の髪の依頼人のにやにやとした顔を思い出したところで、若干忘れかけていたスカートの存在を思い出してしまった。
「君こそ不法侵入じゃないの?明らかにガッコーの生徒じゃないでしょ?」
「女装趣味さんに言われたくありませんね」
「だからこれは趣味じゃなくてだな」
「――探偵ならもっと目立たない恰好をすべきでしょう。変装の意味がないです」
「・・・・・・!」
あれ、探偵って言ったか。
言ってないだろう、これでもプロだ。目の前の銀髪クンはあくまでも無表情で、今日の天気を話すかのようにさらりと探偵と言った。なんだ、おいおい、こんな奴いるなんて聞いてないぞ?探偵という単語を聞いて、興味なさそうに空を見ていたマフラークンもこっちを見た。
「探偵?」
「・・・・・・・・あれー、何でわかった?」
「僕、勘は良いんです」
銀髪クンはそう言って、笑った。マフラークンは怪訝そうな表情で見てくるし、何か調子が狂う。屋上に来たのは失敗だったかもしれない。とは言ってもまさか授業に出るわけにはいかないのだが。いや、逆に会っておいて正解だったのか。こんなよくわからない相手の存在を知らないまま依頼を遂行するというのも、なかなかに危険だ。
「おい、・・・・探偵が、ンでうちの学校にいるんだよ?つーか、お前も私服だし生徒じゃねえっぽいし」
「んーバレちゃ仕方ないか。でも、極秘事項ってやつ?」
「僕はただの暇潰しです」
「・・・なあ、悪ィ、出ていってくんねえ?」
マフラークンは、言いながら口元をマフラーにうずめる。まじまじと見れば、あまり顔色が良くない上に、両目の下には隈がハッキリと見てとれた。ただのサボりではない、そう感じると同時に、このどこか胸騒ぎがする感じには覚えがある。もしかして、彼は。
「ねえ、君さ、」
確かめなければ、そう思って声をかけようとした矢先のことだった。
――――ズドン、と。
「っ?!」
「うわっ!?」
「・・・・・・・!」
地響きの様な爆音が響いて、学校自体が揺れた。